“1984” や “Animal Farm”といった作品が読まれる George Orwell (ジョージ・オーウェル) ですが、彼のエッセイを集めた “A Collection of Essays” は大変面白く、確実に今年読んだ良かった本に入ると思います。彼のエッセイは今で言えばまさにブログの投稿のようで、時勢を反映した彼のその時々の生の声を聴くことができます。実際に第 2 次世界大戦に突入すると辛辣な批評に磨きがかかります。

波瀾万丈の人生
彼の作品は架空の世界の物語が多いこともあって、Orwell がどんな人物だったのかはあまり知らないかもしれません。彼のエッセイは現実世界で彼が経験したこと、感じたことを書いているので作品とは違う一面を見ることができます。
オーウェルの人生はまさに波瀾万丈で、ビルマでは植民地警察官として勤務し、パリでは極貧生活を送り、イングランドでは炭鉱労働を体験し、スペイン内戦での義勇兵として戦いました。さらに第 2 次世界大戦中は、BBC でインド向けのラジオ放送の番組制作に携わり、戦時プロパガンダにも関わっています。社会の色々な角度から物事を捉えることのできる素地はこうして作られたのでしょう。“Animal Farm” は 1945 年に発表され、その後”1984” は 1946 年から 1948 年に執筆されています。
若き日の Orwell は、作家になる以前の 19 歳から 24 歳まで、ビルマ(今のミャンマー)で植民地を支配するイギリスの Indian Imperial Police の警察官として各地で勤務していました。支配者側の官吏として現地のビルマ人からの静かな抵抗を受けつつ、彼はイギリス人ながら帝国主義の矛盾を日々感じていたことが “Shooting an Elephant” に綴られています。
その後、Orwell は 1936 年から 1937 年までスペイン内戦にファシズムと戦うために義勇兵として向かいます。しかしオーウェルは狙撃兵の銃弾を喉に受け負傷、危うく命を落とすところでした。オーウェルは長身で身長は 188cm あったそうです。
切れ味鋭い批評家としての Orwell
自分の実体験ではなく、文芸批評のエッセイも数多くあります。
1944 年頃に書かれたサルバドール・ダリ論では、その芸術性を認めつつも、オーウェルはダリの人格にはかなり強い嫌悪感を示しています。
自叙伝というものは、何かやましい事実をさらけ出していなければ読むに値しない。自分のことを立派に語る人は、おそらく嘘をついているだろう。なぜなら、いかなる人生も内から見れば、それは単なる失敗の連続に過ぎないからである。
とバッサリいきます。
また、Orwell が書いた “Lear, Tolstoy and the Fool” (1947) で、トルストイがシェイクスピアを痛烈批判・酷評しています。トルストイの「やつは才能がない!」みたいなところから始まるのですが、Orwell は、「シェイクスピアがそこまで平凡ならなぜ何百年もの間、人々はシェイクスピアを評価するのか」と反論します。
トルストイは「ゲーテが偉大だと言ったから、みんながよってたかって持て囃しているだけだ」と主張しますが、Orwell はこれを個人的な感情論だと一蹴。「結局のところ、何百年も後世に残り続けているという事実が作家の価値は証明しているのではないか」と反論しています。なかなかの切れ味です。
古本屋時代 “Bookshop Memories”
私が個人的に面白いなと思ったのは、彼の古本屋時代の話。当時 Orwell は 31 歳で独身。 すでに作品を発表していましたが印税だけで暮らせる生活には程遠かった彼ですが、親戚の紹介で古本屋でのパートタイムの仕事につきます。お店の開けてからの 1 時間と午後の 2 時から 6 時半の閉店までの店番をすれば、残りの 4 時間半ほどは執筆活動に使うことができました。
Orwell は、第 2 次世界大戦が始まる少し前の 1934 年から 1936 年頃まで、ロンドンの Hampstead と Camden town の境にあった古本屋で働いていました。このエッセイ集に収録されている “Bookshop Memories” ではその店を訪れるお客さんの人間観察が書かれているのですが、なんともイギリス人だなと思うウィットに富んだ書きっぷりでクスッと笑ってしまいます。今そのお店があったところはパン屋さんになっています。

ちょっと紅茶を一杯。
ファシズムの台頭、スペイン内戦、そして第二次世界大戦と目まぐるしく動いた世界を批評したオーウェルのエッセイはかなり辛辣なものが多かっただけに、戦後の 1946 年にかかれたこの”A nice cup of tea”(一杯の美味しい紅茶) は異色です。
この紅茶のエッセイは「ミルクが先か、紅茶が先か」、まさに英国版キノコタケノコ論争で、まるで「こちらが正しい、異論は認めない」という勢いです。「紅茶は濃ければ濃いほどよい」、「砂糖を入れるのは邪道だ」、そして極めつけは「ミルクを先にいれるなんてもってのほか」、Orwell 先生は紅茶が先派です。パブでぬるいビールを仲間と飲みながら、ひょんなことから熱く紅茶論争をした勢いで書いたのかなと想像しました。
中身は結構面白くて、「茶葉はインド産、セイロン産に限る。中国茶も流行っているのだが、それを飲んだ後に自分が少しだけ賢く、勇敢で、楽観的にならないんだ。」と言っています。紅茶飲むと賢くなったと感じるのかと、わかったようなわからないような。
世界と人間と時間
時代によるトピックの変遷がとても印象的です。第 2 次世界大戦以前は、人種・イデオロギーに纏わる社会問題を、戦中は戦時下の言論についてをとかなり重いトピックが扱われていましたが、終戦後は明らかにトーンが軽くなって、紅茶の淹れ方だったり、はたまたヒキガエルを見て思った「カエルの目ほど美しいものをみたことはなかった」みたいなエッセイも書かれています。いきなりカエルの目ですよ。社会情勢が人に与える影響は大きいのですね。
日本で出版されているジョージ・オーウェルのエッセイ集は、「一杯のおいしい紅茶」というタイトルがつけられて、紅茶好きの私はそれが気になって読んだのです。しかし実際には「一杯のおいしい紅茶」はどちらかといえば例外的なトピックでした。しかし実際には、鋭い文芸批評や政治・社会への洞察が詰まった一冊でした。“1984”や”Animal Farm”しか知らなかった私にとって、オーウェルという人間を知ることのできた、読んでよかった本の一冊となりました。
収録されているエッセイ
私が読んだ “A Collection of essays” には以下のエッセイが収録されていました。
- The Spike (1931)
- A Hanging (1931)
- Bookshop Memories (1936) - おすすめ
- Shooting an Elephant (1936)
- Down the Mine (1937)
- North and South (1937)
- Spilling the Spanish Beans (1937)
- Marrakech (1939)
- Boys’ Weeklies and Frank Richard’s Reply (1940)
- Wells, Hitler and the World State (1941)
- Mark Twain - The Licensed Jester (1943)
- Poetry and the Microphone (1943)
- W B Yeats (1943)
- Arthur Koestler (1944)
- Benefit of Clergy: Some Notes on Salvador Dali (1944)
- Antisemitism in Britain (1945)
- Freedom of the Park (1945)
- Good Bad Books (1945)
- In Defence of P.G.Wodehouse (1945)
- Nonsense Poetry (1945)
- Revenge in Sour (1945)
- The Sporting Spirit (1945)
- You and the Atomic Bomb (1945)
- A Good Word for the Vicar of Bray (1946)
- A Nice Cup of Tea (1946)
- Books vs. Cigarettes (1946)
- Confession of a Book Reviewer (1946)
- Decline of the English Murder (1946)
- How the Poor Die (1946)
- Pleasure Spots (1946)
- Riding Down from Bangor (1946)
- Some Thoughts on the Common Toad (1946)
- The Prevention of Literature (1946)
- Why I Write (1946)
- Lear, Tolstoy and the Fool (1947) - 面白い
- Such, Such Were the Joys (1947)
- Writers and Leviathan (1948)
- Reflections on Gandhi (1949)