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遠い島 ガダルカナル
昭和史」を書いた半藤一利氏がガダルカナル島(ガ島)の戦いについて書いたもの。400ページを越えるかなりの分量だ。

日本からまっすぐ南、ニューギニアの西、あるいはオーストラリアの北西といったら良いだろうか、南太平洋に浮かぶ小さな島のガ島は日本軍が約2万人の死者を出す悲惨な戦いの場となった。その戦いを時系列でなぞってゆく。

日本から6000キロも離れた南の島のジャングルで、多くの兵が戦死し、そして飢餓、病気で死んでいったことは手記や小説で描かれていて、それが現実世界の地獄であったことは良く伝えられているが、なぜそんなところで、そういう状態に陥ったのかはなかなか知ることができなかった。そんな疑問をこの本は多くは解消してくれたと思う。

なぜジャングルで飢餓に苦しまなければならなかったか?それはまず戦場が遠く離れた島だったことが大きな原因だ。補給物資は船で運ぶより他なく、制空権もままならない場所では安全な補給も難しい。累計で約3万人の兵がこの島に送り込まれるのだが、3万人分の食糧を常に補充しておかないが大体20〜30日分の食糧で上陸してきた部隊が、100日以上もこの島で篭城しなければならなくなった場合の結果、食糧が尽きることはやむを得ない。また地勢がジャングルであることも作戦を難しくしたことの一因だ。重火器を運び込んでも、それを敵陣まで持って行くこと自体が難しい。一方でアメリカ軍は空港周辺に強固な陣地を築いてしまっている。結局のところ、ジャングルで身動きは取れず、外に出れば敵の砲火にさらされるというどうしようもない状況に陥る。

半藤氏は海軍に好意的で、この作品でもその活躍を取り上げている。真珠湾攻撃からまだ1年経っていないこの時期、ミッドウェー海戦で大きな打撃は食らったとはいえ、海軍力の差はそれほどなかったと見え、好意的に見れば互角の戦いを繰り広げた。しかし、それに払った被害は大きく、工業生産力の差を考えると、それが徐々に効いてくる原因にもなった。

ジャングルでの悲惨な戦いの陰には、海軍力、制空権のせめぎ合いがあった。ガ島があまりに遠かった事で、空からの支援が十分でなく、また次々に戦闘機やパイロットを失って行った結果、戦争から1年後にはもう十分な支援を期待できるほどの航空機を持っていなかった。その結果は空からはやられ放題になる。こうして戦いの趨勢はほぼ決まってしまった。

もう一点この本を読んで思った事は日本軍の作戦がどれほど無謀であったかについてである。この点に関しては意外な印象を受けた。定説は、日本軍は精神論を振りかざし合理的判断ができない無能なエリート集団だったというものだが、読んでいく限りは無茶苦茶ではないように思えた。確かに甘い読みがあったり、情報の伝達でミスや隠蔽があったりするのだが、それは後になってから言えることであり、そういったエラーのない完全な組織を考える方が都合が良過ぎる気がする。アメリカ軍にしても、ミスは士官の独走はいくらでもあったように読める。精神論についても、報告などが事態を好意的に解釈しようとすることは今でもいくらでもあり、そういった形で現れているだけで、取り憑かれた精神錯乱状態ではないように思う。無茶な作戦にしても、連戦で徐々に消耗していっている手持ちの部隊を使って戦わなければならない状況で何か手を打てと言われれば、そういったリスキーな作戦と取らざるを得なくなることは仕方が無い。限られた選択肢の中ではそれなりに最善を尽くしていたように見える。つまり、あの軍部上層部が病んでいたと一言で片付けられることではなく、そういう状況になれば他の組織でもああいった結果を出してしまう可能性は高い。

作者が嘆くほど軍隊が無能だったというよりも、勝てない戦争に突入した事の当然の成り行きだと思った。この戦いの後の2年ほどは、どんどん状況が悪化していきご存知の通りの結果となる。それぞれの現場は最善を尽くしているものの、大きな流れは動かせないことの怖さである。

この本では、戦いをアメリカ側から見るという視点が非常に限られているため、戦略ミスを嘆く事と現場での日本軍の奮戦ぶりを描くパターンに終始してしまっている。ゼロ戦は強かったというような話が好きな人はこう本を楽し笑めるだろうが、決して一般向けではない。作者は戦争自体については無謀な戦いをしたことを主張しているが、個々の戦いは結構好きなのだなぁと思った。

(2007/07/25)
「遠い島 ガダルカナル」半藤一利
PHP文庫
724円






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