菜の花の沖
この国のかたちでのエピソードが面白かったので、早速買ってみた。
「菜の花の沖」は全六巻、それもそれぞれやや厚め、字も小さめであり、ボリュームは結構ありそうだ。今回読んだ第1巻は、のちの高田屋嘉兵衛の幼年期から、村を抜け、兵庫に渡り、舟屋の見習いから初の樽廻船航路の航海を終えるところまでの話である。
読み始めはその文体に少々戸惑った。小説でありながらも、何やらエッセイのような読み口である。また歴史を紹介する読み物のような感じもしてしまうので、やけに説明的な文章なのである。文章の美しさを追い求めて読むとすれば、これはちょっと違う。文学作品といった風ではないのである。
しかし、そんな違和感も内容の濃さで次第に薄らいでくる。時代考証の緻密さ、実際の歴史的事実をベースにしたであろう高田屋嘉兵衛の一生を伝える伝記は、作家の空想に終わらず、実際にその時代を目の当たりにしたかのような錯覚を覚えさせる。読んだ後の充実感、知的好奇心の充足度、どちらをとっても大変満足がいく。
(ここまでが1巻を読んだ感想)
(2004/05/21)
冒険的航海を成功させた嘉兵衛は、ついに店を構えるに至る。そこから船を建造させ、一大船団を築くまでには長くはかからなかった。そして、念願の蝦夷に渡る。ここまでは船乗り・商人としての嘉兵衛だったが、ここから徐々に冒険家の色が濃くなってくる。
4巻に至っては、北方領土の島々への航路を開く命を幕府から受ける。エトロフ島の開拓を指揮するに至って、当時32歳の嘉兵衛は開拓の指揮を執る、今でいえば企業の経営者のようになってくる。
嘉兵衛のほかに、江戸時代という世の中についてもとても興味を持った。士農工商の身分社会であるものの、江戸時代初期の農業社会から、江戸時代後期には商業の興隆で身分制度が実は崩れつつあるのが面白い。経済が政治を動かすに至ったのだろう。
また、身分制度は運命のように乗り越えられないものかと思えば、農家の次男・三男は街に出て商人になれるし、能力のあるものは幕府に取り立てられれば苗字帯刀が許されるようになったりする。鎖国をしていたといえど、1700年代なりの社会制度であったように思われる。幕府を支える武士の家も、能力のあるものが出なければ、養子を迎えて、その者に家を継がせるなどしていることを思えば、実は名家は企業のようなものでもあるように思える。
5巻は最終巻である第6巻への下準備として、当時のシベリア地方のロシアについての話となり、嘉兵衛はあまり登場しない。しかしながら、その研究は実に面白い。
第6巻では、嘉兵衛が国後島近海を航行中にロシア船に拿捕され、シベリアにつれていかれ、翌年に日本に帰ってくる顛末を記している。これがこの作品を書いた動機になったであろう出来事であり、同作品中、一番の読みどころである。高田屋嘉兵衛の人格、ロシア人司令官のリコルドとの言葉を超えた信頼関係など、読んでいて清々しいものが残る。最後はほぼ1日で読んでしまった。
(2004/07/19)