安部公房
壁に続いて2冊目、正確には「砂の女」も読んだことがあるので3冊目になるが、安部公房の作品の中では読みやすい方ではないかと思った。
とはいえ、不思議ワールドは相変わらず展開する。「壁」に比べると不思議度は低いものの、都市の人間の孤独感、不安感が全般に渡って感じられる。
自分は誰なのか、自分の居場所はどこなのか、ということは実はとても心細い糸でつながっているに過ぎない。主人公の探偵が後半に自分が誰なのかわからなくなってしまったとき、唯一の可能性は1つの電話番号であった。確かに考えてみれば、自分がどこか知らない街に行き、身分を証明するものがなければ、世の中はすべて自分の見知らぬものとなる。そして、きっと誰も自分のことを構ってはくれないだろう。そう考えると、自分のことを記憶している自分の脳が唯一、自分の存在を支えるものになるのかもしれない。
作品の構成で面白いのは、書き出しに非常に似た描写が、最後の方にも登場するところ。「あれ、これは読んだことがあるぞ」と思いつつも、主人公の立場は逆になって使われている。これが書きたくて、この作品が書かれたのだろう。
この本を読んでいるときは終わりのない迷路をさまようような気分で、個人的にはあまり楽しいものではなかった。
(2006/08/16)