氷壁
井上靖の代表作「氷壁」を読んだ。意外だったのは、「しろばんば」ほか、今まで読んだ作品とはだいぶ違った作風だったことだ。
登場人物が相当絞られているのは井上靖の作品の特徴だ。2人の山男、そしてそれを取り巻く何人かの登場人物だけで、物語のほとんどは進行していく。どのキャラクターも必要性があり、そして、性格付けもはっきりしている。
文章は短く分かりやすい文の積み重ねでよく出来ていると思う。特に情景描写はとても色鮮やかで、表現のうまさは特筆ものだ。そして、かなり昔に書かれた作品であるのに、とても現代的な印象を受けた。宮本輝の作品が、同じ印象を与えるように思う。もちろん、こちらの方が古い。
この作品は比較的長いが、展開する出来事はそれほど多くない。むしろ、ひとつひとつの出来事が繰り返し書かれている印象があった。そのことからか、これは新聞連載の小説に向いた形態、もしかするとそうやって書かれたのかなと思った。
さて、中身についてだが、2人の山男はいきさつは違えど、1人の女性の影響で結局山で命を落とすことになる。だからどうだ、ということは書かれていないが、それがこの作品の中核になる。
(2006/09/20)
