花の都パリ。そのパリの美しい街並みを生み出したのがナポレオン3世だ。彼の強力なイニシアチブにより、パリの都市改造が実行に移された。
名前からすれば、初代ナポレオンの威光によって運良く権力の座についたかに見えるナポレオン3世だが、この本を読めば彼が暴君でなかったことは良くわかるし、単純に権力欲で皇帝の座についたのではなく、皇帝就任とは彼にとっては政策実現のための手段でしかなかった。
民衆のため、労働者のために、彼らの生活を向上させるという目的のために、その手腕を振るったナポレオン3世は難しい都市改造をやってのける。もちろん、実際にそれを実施に移すのは政治家、官僚なのだが、その人材登用のうまさも評価したいところだ。パリ改造の立役者オスマンを抜擢することなしに今のパリの街並みはない。
今回この本を手に取った理由は、幕末の混乱期にフランスを治めていたのがナポレオン3世だということを知ったからだ。幕末に幕府に肩入れしていたフランスと、パリ改造が行われたときのフランスが同じ政府だということに興味を覚えたからだ。
ナポレオン3世にはしかし大きな欠点があった。軍事的な才能には恵まれなかったことだ。普仏戦争で致命的な敗北を喫する以前にも、あらゆる海外派兵が杜撰な作戦のもとに行われ、不必要な死傷者を多く出した。希代のリーダー、ローマ帝国のカエサルが兵站には万全の準備を怠らなかったことに対し、ナポレオン3世は悲しくなるほどに兵站が下手だった。
しかし、経済運営では鉄道網の普及を始めとしてフランスに産業革命をもたらし、イギリスに大きく遅れることなく近代化を成功させた功績ははなはだ大きく、まさに「産業皇帝」の名に相応しい業績である。彼が追い求めた民衆のために尽くす皇帝という点でいえば、世襲を成功させることなく第2帝政が倒れたことはそれほど大きな問題ではない。むしろ、皇帝とはいっても大統領的な存在であり、その治世18年を大統領の任期だと思えば、十分な業績を残した後、次に繋いだと考えてそれ自体を評価するだけでよいのではないかと思う。
本書は軽い語り口ながら、リサーチはしっかりしているし、主義主張も明快。読んで損はないと思う。
講談社
ISBN4-06-212590-0
2800円
2007年2月5日
関連ページ
ナポレオン3世の都市計画 - パリ改造についてのメモ
ガリア戦記 - 希代の名将カエサルの書。ナポレオン3世とは違ったタイプのリーダーです。