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名人
名人
川端康成

これは囲碁の名人にまつわる話である。不敗の名人とその名人に挑戦する若手の大竹七段の戦いは、名人の引退碁であった。

語りの口調は、この戦いを観戦しつつ、新聞に記事を書いていた著者である。この話は、物語として書くにはあまりにも本物すぎる。実際には、川端康成が実際に名人の碁を観戦する立場で、そこで体験したことを書いている。名前は一部変わっていたりするものの、これをノンフィクションと捕らえてもよいと思う。

囲碁の戦いは半年にも及ぶ。持ち時間が40時間にも及ぶ戦いの中で、名人は体調を崩し、この試合が終わってしばらくしてこの世を去ってしまう。まさに命をかけた戦いとなった。この作品は、その引退碁の成り行きを、2人の棋士の姿を克明に記すことで表現している。

川端康成らしく文章は簡潔である。装飾過多と感じさせることはまったくないのに、そこに記された描写は非凡で、見事としか言いようがない。細かい観察と、精緻な表現の積み重ねで作品に凄みを与えている。囲碁のことがまったくわからなくても、その凄みは確実に伝わってきた。

この作品は名作だと思う。しかし、今までまったく聞いたことがなかった。文句なしに推すことのできる作品だと思う。簡潔かつ淡々とした文章は川端康成の特徴だと思うのだが、それがあって始めてこの作品が抜きん出たものとなったのだと感じることができた。

「名人」
川端康成
新潮文庫


(2004/03/31)
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