今まで読んだ灰谷健次郎の小説は小学校のとあるクラスを舞台としている。少年、友達の女の子、そして先生(なぜかいつも若い女性の先生な気がする(笑))である。そして、大概少年が主人公なのだが、今回の「兎の眼」は先生が主人公である。そんなわけで、今までの作品とは違った一面が見られる。先生が悩むシーンは、今までに無くちょっと目新しい。
構成も絶妙である。主な流れは、処理場の子供たちと小谷先生なのだが、途中別の女の子の話を持ってくることで、それのみの話になっていない。しかも話が発散してしまうこともない。熱血先生ものでありつつも、その熱血が臭すぎず、そして意外にさらりと綺麗に話が終わっている。語りすぎず、物足りなくもなっていない。
小谷先生に続く重要人物の鉄つんこと鉄二少年の描き方もうまい。彼が心を開いてきているのは読んでいくうちにわかってくるが、彼が手のひらを返したように心を開くわけではない。あいかわらず言葉少なではあるのだが、その中に先生には心を開いているというのがよくわかる。
この小説の頭の方で次のような文章がある。
「ハエは親に生み放され、生涯を仲間も家族も家さえなく、ひとりで暮らす。その間、ハチ、クモ、小鳥などにおどかされるが、他をおどかすことはなく、その食べるものといえば社会の廃棄物にすぎない。そこにはなんの美談もないが、残忍性もなく、ごくつつましい、いわば庶民の生活である。」
小谷先生が読んだハエの専門書に書かれている言葉になっているが、鉄二などのことを暗にいっているようでもある。人々がそういった境遇の人のことを、ハエのように嫌っていることを批判しているように思え、考えさせられた。
ハエの話で特に感じることであるが、作品を書くためのリサーチが随分徹底している。大概、こういった知識などは、他の作家だと取ってつけたような感じになってしまう。まるで伝聞のような白々しい聴こえ方がしてしまうが、随分と研究されているようでその白々しさや底の浅さが見えてしまうようなこともなかった。
解説を読んでいるとどうもこの本は100万部以上売れたようである。確かに「兎の眼」を灰谷健次郎の代表作と読んでいいと思う。面白く、読みやすく、そして心地いい感動がある。お勧め。
2003/03/29
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