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フランス革命史
1789年7月14日、歴史に残るフランス革命の起こった日だ。しかし、フランス革命はこのあと延々と続く。7月14日は革命の始まりでしかない。

まず注目すべきは、「食べていける」ということがいかに人間にとって重要かということである。民衆が飢えていなければ革命は起こらなかったであろう。言い換えると、思想的なものだけでは人間はなかなか動くところまでは来ない。いかに貴族が贅沢していようが、農民や市民がそこそこ幸せに暮らしていれば、妬まれはすれど、体制を倒すところまではいかなかっただろう。

宮廷による浪費も一因だろうが、18世紀後半は近代化の進展でインフレが進行したこととともに、農業の不作が続いたことで農民の生活レベルが大幅に落ちたことが革命のそもそもの引き金である。

7月14日の蜂起はほんの数日で終わる。革命後即王政が倒れるのかと思えばそうではない。人々はそこまでは考えておらず、立憲君主制のような形を思い描いていた人が多かったように思える。そして革命はその後5年ほどかけて、世の中を変えて行く。

市民革命から恐怖政治に至る過程は教科書ではうまく飲み込めないのだが、これはヨーロッパの隣国からの脅威が大きく働いていたことが解る。革命、すなわち内政の混乱に乗じてフランスを押しつぶしてしまおうという思惑が、オーストリア、プロシア、イギリスなどにはあった。隙を見せれば国が潰されてしまう時代だったのであり、同時期にポーランドはロシア、オーストリア、プロシアの餌食になってしまっている。その様なときに素早い意思決定が議会には出来ず、結局権力を集中させる方向に流れてしまう。結果、少人数の委員会への権力集中、しいてはロベスピエール個人の独裁につながってゆく。国家の危機から独裁を許す流れというのは歴史史上何度も起こっていることのように思える。

王政のややこしいところはもう1つある。政略結婚によってどこの王家も親戚繋がりをもっている。マリーアントワネットはオーストリアのハプスブルグ家から嫁いできているわけで、オーストリアとフランスは血縁関係にある。そこでルイ16世とその一家は外国への亡命を図るも失敗してしまう。国自体とも言える王家は、実は国を捨てて出て行ってしまうことも多いにあり得るというのが面白いところだ。王家は権力の座から落ちれば国を簡単に捨てることが出来てしまう。つまり王とは行っても時の国の指導者でしかないと言う訳だ。しかし、この行動が外国の介入を許す口実になったということで、ルイ16世の処刑の言い分となる。別の言い方をすると、革命=王の死ではなかったということだ。実際、革命から王が処刑されるまで数年の間があった。

フランス革命が共和主義をフランスに実現したことは間違いないし、それは画期的なことだろう。しかし、それが世の中で初めてのことだった訳ではない。お隣のイギリスは共和制ではないものの、今と同じく、王がいながらにして議会が力を握っていた。首相が居て、内閣があった。アメリカは既に独立戦争を経ている。いにしえに例を求めればローマやアテネでは民主主義は2000年以上も前に実現されていた。当時のことを考えても、民衆が力を持ったのはフランス革命が初めてではなく、既に各地では起こっていたことだった。

フランス革命はあまりにインパクトが大きすぎて、誰にもその動きをコントロールすることはできなかった。最初の民衆の蜂起しかり、恐怖政治への流れしかり、革命に関わった人々はみな流れに流されていったのだった。この一連の出来事は、画期的である一面もあれば、陰惨極まりない出来事の連続でもある。

フランス革命で悪名の残したロベスピエールも、流れに呑まれた1人だろう。政敵を倒すことで、権力を強化したように見えたが、逆に周りに敵が居なくなってしまった時、彼は自分が倒される恐怖に苛まれた。その結果が恐怖政治による粛正の嵐だ。彼の恐怖が粛正を呼び、その結果さらに彼自身の恐怖が高まる結果になってしまった。そして、それが後戻りできないところまで行ったとき、世の中は彼を必要としなくなった。

読み物としてのミシュレのフランス革命史はフランス人ではない我々には少々熱過ぎるきらいがある。いわゆる外国の「ああ、なんということか!」的な表現は読者を一歩下がらせてしまう。この文庫版は抄訳でありすべてが訳されているわけではないが、上下2巻のかなりのボリューム。フランス革命に対してそれまで以上の理解が進むことは間違いない。しかし全体を俯瞰するというよりも、ここの出来事をなぞる感覚なので、はっきりとした理解が進むというよりも、大量の生の情報を与えられたような感覚だ。

ミシュレ自身は文章がうまいような感じはあまりしないが、最後に記しておきたいのは、訳者の桑原武夫氏による「人民史家ミシュレ」というこの本の導入だ。この文章は名文だと思う。訳者のこの仕事にかける情熱が伝わるし、非常に簡潔、明快に書かれている。久しぶりに読んでいてうまい文章だと思わせられた。

(2007/02/24)

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