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パリ点描
1925年から1939年まで、アメリカの雑誌「ニューヨーカー」の特派員としてパリから連載を送りつづけたジャネット・フラナーの記事をまとめたのがこの「パリ点描」だ。

1920年代、すでにパリはパリだった。アメリカ人が憧れる花の都パリ。多くの芸術家がここに集まってくる。登場する芸術家たちは現代でも名前が残っている人たちばかり。いかにパリに力があったのかがわかる。

この記事で取り上げられるのは、芸術、芸能、フランスを騒がす大事件、戦争の足音、そして有名人の死亡記事などバラエティーに富む。

例えば、この作品の中にジョルジュ・シムノンという作家の評がある。ガストン・ルルーやモーリス・ルブランと並べて評されている当時人気の作家。そのシムノンはその年に発表した主人公のやったことを実際にやってしまっていた。モンテカルロのカジノで彼の作品の主人公が20万ドルすってしまえば、彼もそれをやってしまう。なんとも。

フランス革命当時の象徴的なイメージであるギロチンは1920年代にもまだ使われていたと知って驚く。そして、その運用が世襲制の死刑執行人ムッシュー・ド・パリにより行われ、さまざまなしきたりにもどづいて行われる。そしてこのレポートの中に、その時代の終焉も記されている。

一流ブランドとして知られるシャネルの創業者、ガブリエル・シャネルのエピソードも面白い。今となってはシャネルと聞いてデザイナー本人を想像することもできないが、一代でブランドを築き上げた才能は短いエピソードからも十分推測できる。

この連載が行われていたのは第1次大戦後から第2次大戦に突入するまでの1925-1939。1933年の終わりにはナチの台頭による戦争の足音が確実に響いてくる。戦争が近づいて来たときに人々はどう行動するのかということも興味深い事柄だ。1938年10月、60歳以下の職人は動員され、生活に影響が及ぶ。そして、ドイツに対するイギリスとフランスの立ち向かい方の違い。

その他の出来事も、現代を予感させるものはいくつもある。マダム・アノーの金融詐欺事件などは現代の出来事を読んでいるかのようだ。

「フランス革命史」を書いたミシュレについて、面白い評があった。これはジャック・ハンヴィルについての記述なのだが、彼の非王党派時代のフランス史は、哲学者テーヌやミシュレの著作に比べると率直で信頼できるとされているとのこと。つまり、ミシュレの歴史書は思い込みが多いということか。

フランステニスプレーヤーのラングレンが夭逝。そのラングレンは「自然と犬と嵐が好きでした」という。カルメンで有名なビゼーは生前なかなか評価されなかった。

と挙げれば切りがないほど、興味を惹かれる内容がぎっしり詰まっている。ひとつ面白いのがジャネットがノって書いているトピックに関しては、記事が普段の数倍の長さになること。筆がノって止まらないといった感じで面白さは保証付きなのだが、果たしてこの記事をどのように載せていたのか心配になってしまう。

1350円と文庫にしては高めの本だが、中身の濃さは保証できるので、それだけの価値は十分あると思う。オススメの一冊。

(2009/03/07)
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