随分ぎこちない出だしの作品だなと思いつつ読み始めた。最初の6−7章はギクシャクしていて、まったくのってこなかったのだが、これがノンフィクションだということを知る。そう、ノンフィクション。実話を元にしている。
最初に感じたぎこちなさは、筆者がこの事件に惹きつけられたことをうまく説明できないところに帰着するのだろう。本能的に気になったとしかいいようがない感じだ。
この本のテーマとなっている事件は、ドナウ川に身を投げた2人の日本人の男女の心中事件だ。ルーマニアに留学したばかりの19歳の女性日実(かみ)と33歳の自称指揮者の千葉が、出会ってから1年も経たないうちに死を選ぶ。
読んでいて苦しく感じたのだが、これが現実の出来事。
一見普通に見える19歳の女子留学生が、最初のクリスマスを境に道を踏み外す。その変わり様はあまりに急激で誰にも止められない。出会った千葉という男が、妄想に取り憑かれている、普通とは言えない男なのだが、厳しい環境に置かれた日実には救いだったのか。
今までの生活が一夜にして崩れさる。何かに取り憑かれたかのように寄り添うニ人。それは何かが壊れたからなのだろうか。一見普通と書いた通り、日本人の父とルーマニア人の母の間にハーフとして生まれた日実の子供時代は決して恵まれたものではなく、内に何かを溜め込んでいたのかもしれない。そして、それが崩壊したのか。
まわりの人間は、彼女を助け出そうとする。客観的な目で見れば男は関わらない方がいい人間だ。彼が日実を狂気で洗脳してしまったかのようにはじめは見えるのだが、日実は死に至るまで、狂気から醒めないままだったわけではない。ルーマニアを去りフランス、ウィーンと流浪するうち、男には生気がなくなっていってしまっているように思える。最初と最後で日実にはあきらかに心境の変化がある。死に至ったのは、その出会った頃の気持ちとは違う動機によるものだ。男に引きずられていたところから、男を見捨てることができなくなり、行き詰まった上で終わりをつけたのだろう。
子を持つ親としては考えたくもないことが現実に起こっていたこと。誰にでも起こる事でないとは言え、自分たちには関係ない事だとは言えない恐ろしさを感じる。この作品中に何カ所かぐさっと突き刺さるような部分があるのだが、彼らの遺書はその中でもきつい。それを受け止められる両親の心境はどんなものなのか。
最初のスローペースを乗り切れば、あとは一気に読み切ってしまうに違いない。読んだ後に誰でも考えさせられる作品だと思う。読んで損はないと思う。しかし、テーマが重厚なのを別にすると、文章、観察などは唸らせるものがなかった。作品が成立するために必要な取材はされているけれど、何か執念のようなものが後一歩のところで欠けているような気がする。
(2009/03/09)
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