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スプートニクの恋人
村上春樹
講談社文庫

前置きしておくと、村上春樹の作品は好きではない。「ノルウェイの森」、「ねじまき鳥クロニクル」、「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」を読んだのだが、どうも合わないらしい。

しかしながら、やはり人気のある作家なので、本屋に行くと必ずといっていいほど作品が目に止まる。そしてタイトルのつけ方が絶妙である。「スプートニクの恋人」のほかに「国境の南、太陽の西」はタイトルが大変魅力的だ。そして、好きか嫌いか確認するためにも読んでみようという言い訳で読んでみることにした。正直を言えばタイトルに負けたというところだが。

一言で感想を述べれば、この作品は悪くない。自分にとって嫌いなものではなかった。

この作品は22歳のすみれと、そのすみれが恋に落ちるミュウ。そして、すみれを想いながら、その想いが届かない「ぼく」の3人を巡る物語だ。ここのところ古典文学をいくつか読んでいたこともあるのだが、この作品は極めて現代的だ。現代の日本人が好みそうな、お洒落でファッショナブルな世界である。小説の中でそのシーンを飾る風景、音楽や文学作品などは言うまでも無く、小説の文章自体もお洒落に飾りされている。洗練されたレイアウトのインテリア雑誌などをパラパラとめくっている時の満足感に似た感覚を覚えた。

冒頭では、

  「父親は横浜市内で歯科医を開業している。非常にハンサムな人で、とくに鼻筋は『白い恐怖』の頃のグレゴリー・ぺックを髣髴とさせた。」

というような表現、また別の場所では、

  「ウラジミル・ホロヴィッツのモノラル録音時代のショパンは、とくにスケルツォは文句なしにスリリングだ。フリードリヒ・グルダの弾くドビュッシーの前奏曲集はユーモアに満ちて美しく、ギーゼキングの演奏するグリークはどこまでも愛らしかった。」

といった具合だ。しかし一方で、それが嫌いと感じる理由の一つでもある。お洒落さを醸す表現は話の本筋にはあまり必要がないのである。そして、その装飾のために文章は冗長になってしまう。お洒落さを引き出すための小道具は読者が名前を聞いたことがあるかないかのギリギリの線で、そして内容を実は知らないというものを注意深く選んで散りばめている。一見知的好奇心を満たしてくれるようで、読んだ後も、それが何かはわからないままである。

とは言え、冒頭に悪くないと書いたのは、もう1つの嫌いだった流れがブツブツと切れた脈絡のない構成がこの作品では感じられなかったことだ。村上春樹風の世界で物語は進行するのだが、全体を通じて1つのストーリーがあり、その流れはかなり確実なものである。物語のテーマとなる、「失われた自分」を登場人物はそれぞれ持っていて、それを各々が乗り越えていく。物語のテーマを強く感じさせる部分が、ノートパソコンに残された2つの文章、そして、ミュウの過去の告白にある。1つのテーマに基づいて作品が構成されている点で読み応えがあった。

村上春樹の作品を読んだ中では一番良かったと思うが、村上春樹が好きな作家になるかといえば、そうは思わない。装飾過多であり、そして付け加えの文の多い歯切れが悪い文章はやはりあまり好きになれそうにない。僕には気取った物語よりもベタなお涙頂戴物の方が合っているようだ。しかしながら、読んでみてなぜ人気があるのかは納得がいくし、他人には読んでみてもいいんじゃないかと言うかもしれない。

2003/08/12
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