ガリア戦記
「ローマ人の物語」の読みどころのひとつはやはりカエサルの伝記であろう。このカエサルの代表作が「ガリア戦記」であり、今から2000年以上も昔に書かれている。残念ながらラテン語は読めないから日本語の翻訳を読んだが、それでもこの著書の良さ伝わってくる。
この著書は、ローマ帝国の将軍カエサルが、ガリア(現在のフランス)への遠征について記したものであり、本国ローマの市民に対し、戦果を報告するために書かれたものである。カエサルはローマ軍司令官であり、前線でローマ軍の指揮を執る一方、政治家として本国の民衆の期待にも答えなければならないという難しい仕事を見事にこなした。その上、この書の出来栄えは群を抜く。後世では歴史家としての評価も高い。
この作品の評価が高い理由を考えてみると、明らかな理由は少なくとも1つは見つかった。戦果の報告は誇大になりがちであるが、カエサルは決して感情的な表現を用いず、常に冷静に、事実を淡々と述べることで、その出来事を伝えている。その戦果を評価するかしないかは読み手が判断することで、無為な売り込みをしなくても、それが伝わることがカエサルにはわかっていたからこそこんなことができたのだろう。
「ガリア戦記」の歴史書と評価とは別に、カエサルの軍人としての能力、そして、ローマ軍の戦略・戦術についても述べておきたい。まずカエサルは神業的な手腕を発揮して、無理な戦闘を勝ち取ったというタイプの印象を持たない。もしかしたら、そういう状況におかれれば、そういった能力を発揮したかもしれないが、カエサルは戦闘に持ち込まれたタイミングで常に勝ちが保証されているような戦いをする。兵站への気配りは人一倍であるし、兵士の志気のコントロールもうまい。
次に戦闘後の統治についての手腕は史上稀に見る名政治家といって良いだろう。ガリア人、ゲルマン人の文化・風習・嗜好を理解しながら、うまく地域全体を纏め上げる手腕には恐れ入る。
最後にローマ軍について。日本ではよく「欧米は狩猟民族で云々」という表現があるが、これはあまり正確ではないかもしれない。というのも、ローマ人は狩猟民族であるゲルマン人と違って、農耕民族であり、体格もゲルマン人やガリア人に対して劣っているのである。しかし、ローマ帝国の時代のローマ軍の強さは格別である。なぜか。それは技術力の違いにあると思う。
読んでいて驚くことは、戦闘は単に平野での合戦ばかりではなく、篭城する敵を攻め落としたりするような包囲作戦、森林地帯での掃討作戦など、さまざまな形式があるのだが、ローマ軍はここで壕を張り巡らしたり、包囲網を一晩で完成させたりという工兵的な能力に秀でていた。体力・精神力だけで技術なくして戦争には勝てないということを2000年前に証明していたのだ。
(2006/08/09)
ガリア戦記 岩波文庫 カエサル(著) 近山金次(訳) 735円
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