オレンジの壺
もうかなり沢山の宮本輝の小説を読んだが、今回は上下巻の「オレンジの壺」を読んだ。今回の話の主人公は佐和子という女性で、商事会社を営む一家の娘である。その佐和子が祖父の日記を頼りに祖父の辿った運命の跡を辿るという話。
祖父がヨーロッパに渡ったのは第1次世界大戦と第2時世界大戦の間。そんな時代の日本人が半分また別の主人公でもある。
読んだ感じは、「ドナウの旅人」に近い。女性の主人公から受ける印象も宮本輝の作品の主役の女性らしい感じで、やはり「ドナウの旅人」の主人公のような印象を受けた。この作品もその主人公がパリに足を運び、そしてそこからエジプトのアスワンに向かうなど、類似点が多い。だが、下巻に入ると、その大部分は佐和子の読む祖父の日記を占めることになる。独白調の長文は、今度は「錦繍」の手紙のやりとりに似た印象を受けた。こちらも宮本輝らしい文章だと思うが、よくあれだけ大量の日記を書くことができるものだと感心する。しかもそれは空想の日記なわけだ。
読み終わってみての印象はあまりパッとしないのだが、下巻に至っては結局1日で全部読んでしまった。日記に登場する人物は、躍動感が今ひとつないのだけれども、それぞれ個性があって面白い。祖父の日記ではなく、祖父の目の前で起こった出来事として書いてあれば、より躍動感が出たのかもしれない。
悪いところはないのだけれど、なぜか物足りない、ヘンな感じだ。
「オレンジの壺」 講談社文庫 (2004/04/27)
